変わりゆくオーラルケア市場 オジサンのイメージはもう古い!
“おじさんの食後のつまようじ”のイメージから、日本人にはなかなかなじまなかった「糸付きようじ」や「デンタルフロス」による歯間清掃が、注目を集めている。歯間清掃具の売れ行きは年々増え、その規模は110億円市場とも。子供のうちから習慣をつけさせようと、子供用の糸付きようじが売れ、小学校で糸付きようじ講習会が開かれたり、1歳半健診で使い方を指導する自治体も現れた。先進国の中では遅れている、といわれていた日本人のオーラルケアが変わりつつある。(佐々木詩)堺市西区の市立平岡小学校。11月末、6年生47人を対象に歯と歯の間の汚れを落とすための歯間清掃具、糸付きようじの体験講習会が行われた。同校は長年、歯ブラシによる歯磨き講習を行ってきたが、今年初めて糸付きようじを導入した。ほどんどの児童が糸付きようじを使ったことがなかったため、「すっきりする」という声も上がる一方、「糸が抜けない」と困惑する児童もいたが、授業の終わりにはうまく使えるようになった。同校の養護教諭、古田知子さんは「ブラッシングだけでは、磨き残しがあったり、歯並びが悪いとブラシが届かなかったりするので、今年から糸付きようじを取り入れました。1日に1回使うといいね、と指導しています」と話す。「食後にようじでシーハーするのはオジサンみたい」。歯ブラシ以外の清掃具が日本であまり知られていなかった昭和62年、欧米で主流だった糸状のデンタルフロスに柄を付けた「糸ようじ」を小林製薬(大阪市中央区)が発売したころは、歯間清掃のイメージはあまりいいものではなかった。同社の「糸ようじ」開発担当、望月真理子さんは、「発売当初、驚かれたようです。それでも年々売り上げが伸びています」と話す。歯間に糸が入ることで、汚れを絡め取る「糸ようじ」のよさを追求し、糸付きようじを浸透させようと、改良を重ねた。絡み取る力を追求する余り、平成11年には糸の本数が200本のものを発売。しかし、糸1本1本が細すぎ切れやすく、半年で6本糸にリニューアル。「試行錯誤の連続でした」(望月さん)。糸付きようじの需要を加速させたのが、平成元年。厚生省(現・厚生労働省)と日本歯科医師会が歯の健康維持を提唱するため「8020運動」をスタート。「80歳になっても自分の歯を20本保とう」というこの運動を受け、歯科医が歯間清掃具の使用を積極的に推奨するように。昨年度にはさらにオーラルケアを推進しようと「口腔健康保険法」が施行された。こうした背景を受けて、「糸ようじ」の売り上げも徐々に伸び、平成元年度に4億円規模だったのが、今年度は10億円に達する見込み。ライバルメーカーもさまざまな清掃具を投入し、歯と歯の隙間を小さなブラシで磨く、歯間ブラシやデンタルフロスなどを含めた歯間清掃具全体の市場規模は100億円を超えている。「歯磨き粉も含めたオーラルケア商品は唯一の成長産業といえる」(同社広報)と熱視線を送る。平成12年、同社は「子供の糸ようじ」を発売。「子供に糸ようじなんて」という声も聞かれたが、若い世代の親たちの支持を集めた。昨年4月に同社が行った調査によると、400人の母親のうち28%が「子供に歯間清掃具を使ったことがある」と回答していた。「ここ10年ほどで、1歳半健診でも歯間清掃具の使用が推奨されるようになりました」と望月さん。ブラシで歯磨きする以外のオーラルケアが、もはや当たり前と受け止められる時代が到来しつつあるようだ。
2014年1月5日 産経新聞より