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歯科インプラント手術 安全な治療へ対策急務

[2012.08.14]

インプラント(人工歯根)手術が元で顔の神経まひなどの障害が生じ、後に大学病院などで治療が行われた例が、2009~11年の3年間に421件あったことが日本顎(がく)顔面インプラント学会の調査でわかった。歯科関係学会や団体は、事故防止策を進める責任がある。

インプラントは、歯を失った場合の治療法の一つ。手術は、歯がなくなった部分の歯肉を切開し、あごの骨(歯槽骨)にドリルで穴を開けてチタン製の人工歯根を埋め込み、人工の歯を取り付ける。
保険が利かない自費診療だが、入れ歯に比べ違和感なくかむことができ、ブリッジのように周りの歯を削らないですむ長所がある。年間の出荷本数は約60万本。歯科診療所の約2割でインプラント治療を行っている。

歯科診療の中では、比較的大きな負担を患者の体にかける外科手術だ。

07年には東京都内の歯科医院で、出血多量による死亡事故が起きている。しかし、インプラント治療のほとんどが中小の歯科医院で行われているため、全体のトラブル件数や実態は把握できていなかった。

日本顎顔面インプラント学会が集計した421件のトラブルのうち、手術の際に神経を傷つけたケースが158件(37・5%)と最も多かった。インプラントが上あごの骨を突き抜けて副鼻腔(びくう)に入ってしまった例も63件(15%)あった。神経が傷ついたケースの半数以上は、治療でも良くならず、まひが残った。
トラブルは「ここ10年ほどで急に目立ってきた」と、日本大学松戸歯学部の加藤仁夫准教授(口腔インプラント学)は話す。
材料や器具の改良が進んだことが、歯科医院がインプラント治療に参入する壁を低くし、かえってトラブル増につながったという。「20~30年前は、歯科医自身がうまくできそうな歯を選び、慎重に実施していた。近年は経験が乏しい歯科医が見通しがつかないままに手術を行った結果うまくいかず、患者が大学病院に回ってくる」(加藤准教授)。

また、歯科医院は競争の激化で保険診療だけでは経営が厳しいことから、収入確保のため1本30万円程度と高額なインプラント治療が無理に実施されているとの指摘もある。

適正化に向け、関係団体は対策に動き出した。

日本歯科医学会は国の委託を受け、安全にインプラント治療を行うための歯科医向けの指針を作成し、早ければ今年度中に周知を図りたい考えだ。厚生労働省は、歯科医師国家試験に、インプラントと医療安全の項目の出題の割合を増やすことも検討している。

また、日本口腔インプラント学会は、同学会の専門医約800人だけが、インプラント専門医として広告表示できるよう、国に求めている。同学会の渡辺文彦理事長(日本歯科大学新潟生命歯学部教授)は「ネットやチラシの一部に不適切な広告が見られ、患者を惑わしている。学会の専門医表示が認められれば、専門医取得の意欲が高まり、治療水準の向上につながるはずだ」と話す。

歯科医院の治療体制全体を評価しようとの試みもある。NPO法人・歯科医療情報推進機構(藤本孝雄理事長)は、専門家で作る審査委員会が歯科医の技量と安全確保の体制を評価し、基準を満たした施設への「インプラントセーフティーマーク」を交付している。今年2月末までに45施設が取得した。

患者自身も最低限の知識を備える必要がある。手術に伴う危険や治療後の継続した手入れについての説明、治療の成否に関わる全身の健康状態や歯周病の検査を治療前に実施しているかも、重要なポイントだ。(医療情報部 渡辺理雄)

2012年8月14日 読売新聞

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