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口腔ケアで防ぐ震災関連死

[2016.07.07]
熊本地震から間もなく3カ月。熊本県内では今なお5200人(5日現在)が不自由な避難生活を余儀なくされている。6月20日夜からは豪雨による土砂災害が、被災者に追い打ちをかけた。過去の大災害の被災地では、口の中の細菌が唾液や胃液とともに肺に流れ込んで肺炎を起こす誤嚥性(ごえんせい)肺炎の患者が増え、時に命が失われるケースがあった。口の中の健康状態を保つ「口腔(こうくう)ケア」は、災害時の過酷な環境では、命を守る重要な取り組みになる。日本歯科医師会の「災害歯科コーディネーター」として地震発生後、度々熊本県を訪れている東京医科歯科大大学院の中久木康一助教(口腔外科)に、災害時の口腔ケアのノウハウと歯科に関する被災地の状況を聞いた。 阪神大震災で誤嚥性肺炎の危険が発覚 災害時の口腔ケアの重要性が叫ばれるようになったのは、1995年の阪神大震災がきっかけだった。900人以上が震災関連死し、そのうち肺炎が約4分の1を占めたとされる。その後「口腔ケアを徹底すれば誤嚥性肺炎の発症率を減少させることができる」との認識が広まり、2004年の新潟県中越地震などで口腔ケアが実施され、少しずつ効果が証明されてきた。災害時の歯科医療を充実させる体制づくりも進められた。中久木さんが務める災害歯科コーディネーターもその一貫だ。避難所など現地で各種の支援をマネジメントする行政や地元歯科医師会などと、全国各地から訪れる歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士らの支援チームの間に立ち、連絡・調整を行う。東日本大震災を経て、その体制は徐々に構築、強化されつつある。 南阿蘇村では誤嚥性肺炎が増えていない?! 中久木さんは地震発生から約1週間後の4月22日以降、週末を中心に計7回、被災地入りしている。現地の医療関係者らと益城町、南阿蘇村、西原村の避難所を回り、刻々と変化する現場の状況やニーズの調査などにあたった。 震災後、熊本県内では誤嚥性肺炎が増加している地域もあるが、「南阿蘇村では増えていないと聞く」(中久木さん)と言う。背景にあるのは、山あいの小さな村ならではの地域の強い結びつきだ。中久木さんは東日本大震災のときも宮城県女川町などで支援した経験から「普段から人のつながりが強く『○○さんのおばあちゃんはこんな病気だ』とか『あの家の息子は昼間いない』とか、地元の保健師などが地域の実情をよく把握している地域と、隣人がどんな人かも知らない地域では、非常時の医療支援の進めやすさに大きな差が出る」と指摘。南阿蘇村でも歯科医師、医師、保健師、ヘルパー、訪問看護ステーションの看護師、特別養護老人ホームの職員などさまざまな職種の人が連携して対応しやすい環境だったことが奏功したのではないかと考えている。 2016年7月7日 毎日新聞より
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